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【名著】今さらながら『マネー・ボール』を読んでみた!

野球好きのグロースハッカーなら、やっぱりこれを読まないわけにはいかないですよね!

メジャーリーグの中でも屈指の(?)貧乏球団であるオークランド・アスレチックスが、2000年代初頭になぜ大躍進することができたのか。

選手の評価軸として打率、盗塁、防御率といった数字が重視され、資金を多く投下してそれらの”優秀な”選手を獲得する。それこそが強豪チームを作り上げる近道だと思われていた当時において、アスレチックスGMのビリー・ビーンが常識とは異なるアプローチでチーム作りをしていく過程が書かれています。

一方で、本書ではビリー・ビーンだけでなく、アスレチックスが用いた評価手法「セイバーメトリクス」の提唱者であるビル・ジェイムズ、ビリー・ビーンのチーム作りによって影響を受けたフロントや選手たちのストーリーについても丁寧に描かれていて、群像劇として読んでもとても面白い。

ドラフトの場面は当時の現場の緊張感がヒリヒリと伝わってくるし、エピローグがジェレミー・ブラウンの話で締められていたのも、読んでいるこっちが幸せな気分になれる感じがして、すごく良かったです。

 

セイバーメトリクスとは何か

 

アスレチックスが用いた評価手法である「セイバーメトリクス」の概念をとてもざっくりと説明すると、勝利や得点と関係する指標について、統計的な観点から発見しようとする考え方です。当時のアスレチックスはこの考え方に従って、例えば以下のような要素を重視してチーム編成を行っています。

 

  • 打率以上に出塁率と長打率を重視
  • 盗塁や犠牲バントなどの効果を否定
  • 高卒選手は評価を下げる

 

「太っている」「下手投げ」など、イメージだけで不当に評価を下げられている大卒の新人選手や、故障などで成績が低下して普通の球団では不要扱いされた(けれどアスレチックスの理論に照らすと十分に使える)ベテランなどを安い値段で発掘し、場合によっては高い値段で他球団で売りつけるということも、当時のアスレチックスは積極的に行っています。

さらには、セイバーメトリクス的な観点で見ると評価の低い自軍の投手について、「セーブ数」というという箔をあえて付けてから他球団に売り飛ばすという荒技を敢行したりもするのが面白い所です。

※セーブ数は勝利との実質的な関連性が薄いにも関わらず、古い価値観を持つ人々の中では高く評価されがちな指標のひとつ

 

本質に気付く人々と、眼を背ける人々

 

セイバーメトリクスが誰に受け入れられ、どのように普及していったのか。

アスレチックスが取り入れるよりずっと前から、コアな野球ファンに受け入れられていたんですね。その一方で、当事者であるMLB関係者がどうだったかというと、アスレチックスが実際に躍進して『マネー・ボール』が世に出てもなお、レッドソックスのような一部のチームを除いて頑なに否定され続けた・・・。

これはすごく示唆に富んでいて面白い話。

自分もしくは誰かが築いてきた成功体験や常識に捉われすぎて、新しくて本質的でもあるような概念を受け入れることができない。誰かがいつのまにかゲームのルールを変えた結果、勝ちパターンや負けパターンが変わってしまっていることに気付かない。

外部の人たちが指摘する客観的で本質的な事実から眼を背け続けた結果、それを受け入れて新しいルールに乗っかった人たちにどんどん先を越されていき、自分たちは無意識のうちに負けパターンに引きずり込まれている。

ビジネスの世界でもよくありますよね、こういうの。

 

世の中のルールは常に変わるもの

 

マネー・ボールが出版されたのが2003年なので、本書での話はそこで終わっています。 では躍進したアスレチックスが、その後どうなったのか。以下に挙げるのは、レギュラーシーズンの勝率です。

 

  • 1998年 .457
  • 1999年 .537
  • 2000年 .565
  • 2001年 .630
  • 2002年 .636
  • 2003年 .593
  • 2004年 .562
  • 2005年 .543
  • 2006年 .574
  • 2007年 .469
  • 2008年 .466
  • 2009年 .463
  • 2010年 .500
  • 2011年 .457

 

ご覧の通り、2000年代後半に入ると再び苦戦を強いられることになります。

それはなぜか?

勘が良い人ならすぐにお分かりでしょうが、他球団がアスレチックスと同じ手法を取り始めたからです。出塁率や長打率が良い打者の評価が高騰し、不当に低い評価の選手を安く発掘するというそれまでの手法が通用しなくなった。

つまり、またしてもゲームのルールが変わったということです。しかも金満球団(かつセイバーメトリクスを重視する球団)が再び有利になるように。

そんな中で、相変わらず予算に限りがあるアスレチックスがどのような戦略を取ったかというと、以前は彼ら自身が否定していた盗塁や犠牲バントを行うようになったり試行錯誤を繰り返しているようです。

 

  • 2012年 .580
  • 2013年 .593

 

勝率を見ても、一定の効果は出ていますね。

出塁率や長打率が重視されるというのが今も本質な要素であるなら、この2年間の勝率の改善は一過性のものである可能性があります。別の見方として、選手の体格や技術が変わってくる中で、アスレチックスはすでに別の何かを掴んでいて、ルールを変えようとしているのかもしれません。

いずれにしろ、負けパターンに引きずり込まれないようにするために、2014年現在において最適で本質的なアプローチをアスレチックスが模索し続けているということだけは明確です。

 

「不公平なゲームに勝利する技術」

 

『マネー・ボール』の原題は『Moneyball: The Art of winning An Unfair Game』(不公平なゲームに勝利する技術)です。

ベンチャーと大企業とでリソースが異なることもあれば、ある日を境にルールが変わることもある。そういうビジネスにおける不公平さや不確実性を、ベースボールの世界に凝縮したのがこの本。

結論としては、文句無しに素晴らしい内容です。なんで今まで読んでなかったんだろうって後悔するくらい。

ついでに言うと、翻訳も素晴らしいです。2011年にブラッド・ピット主演で映画化されているので映像作品として知っている人も多いと思いますが、ぜひ書籍の方も読んでみてください!

 

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

マネー・ボール〔完全版〕 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)